空しか、見えない
「どうしましたか?」

 わざと軽快に、もう一度訊ねた。

「佐千子、義朝が死んだよ」

 千夏の話は、いつもの失恋の相談ではなかった。

「こんな時期にさ、海にいたんだって」

 声はそう続いた。
 急に、子機を持つ手が脈打った。手なのか胸、頭なのかもわからないけれど、心臓から送り出される血液が全身を駆け巡っていくのがわかった。

「義朝なんて名前、他にはいないよね? 間違いないんだよね」

 佐千子は上擦って、そう訊き返した。
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