空しか、見えない
「行くぞ!」

 環は改めておしゃもじを首からぶら下げる。

「ほら」

 そう言って、あごで促される。どうやら佐千子にも下げろと言っているらしい。

「まじ?」

「まじに決まってる。早く」
 
 佐千子も、ぶら下げる。
 首から下げたのは、中学生以来だ。
 宝もん、なのは環と同じなはずが、実家の押し入れの奥深くに入っていて、母がいなくなったいまとなっては、見つけ出すにもようやくだった。ハッチの思い出には浸りたくなかったから、余計に。
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