空しか、見えない
「サセー、環!」

 駅舎を出ると、なんとすでにフーちゃんがいる。フーちゃんは勇敢なことに、たったひとりきりで首からおしゃもじを下げて、改札の方を心細そうに覗いている。

「フーちゃんが、一番乗り?」

 互いの肩を叩き合っているつもりが、おしゃもじがかちゃかちゃ音を立てる。フーちゃんは、それだけで涙ぐむ。
 駅舎前のベンチに、荷物を置いてある。そんな大胆な格好でひとりで待っていたフーちゃんに、拍手を送りたくなる。
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