愛してるが言えなくて

18歳になった時、真田さんが私を教習所へ通わせた。


施設を出てから、私は保険証もなく身分を証明するものは

何一つ持っていなかった。


これから先、困ることがあるかも知れないからと

通わせてくれた。



私はいらないと言ったけど、

おかげで自分の戸籍というものを初めて目にした。



母親の名前や住所…祖母と2歳まで過ごした家が本籍だった。


初めて免許証を手にした時、


【二村愛美】と書かれたそのカードを見て、


〈あなたも一人の人間だよ〉

って言ってもらったような気になった。



真田さんはお祝いに新車を買ってくれると言ったけど、


出掛けたい場所も、一緒に行きたい人もいないからと断わった。



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