フィレンツェの恋人~L'amore vero~
私の知らない空間で、もうひとつの愛が生まれていたなんて、知らなかった。


信じられない。


悔しくて悲しくて、憎たらしくて、私は泣きながら歩き続けた。


「今日、定時で上がれそう? 会いたいんだ」


今日はクリスマス・イヴだったから、


「いつものカフェで待ってるよ」


だから、朝一で慎二から電話をもらった時、私は想像した。


いつものカフェで落ち合う。


そして、大好きな苦い苦いエスプレッソを飲みながら、一日の事を報告し合う。


ディナーの店を決める、と言いたいところだが、店はすでに慎二が予約していて。


用意周到な慎二の事だから。


夜景を一望できるロイヤルホテルの最上階の、スカイレストラン。


お互いに好きなイタリアンのコース料理に、ちょっと奮発した赤ワイン。


それで、きっと、部屋も一室とってある。


ほろ酔いの私たちは、愛し合う。


また、あの腕に抱かれて、たっぷりの幸福に溺れる。


きっと……、そんな事を想像しながら、カフェに向かった。


でも、待っていたのは、もちろん慎二と、なぜか美月だった。


「東子さん。わたし……ごめんなさい」


美月の一言目はまさに謝罪で、


「東子。すまない。もう、分かってしまったと思うけど、俺、美月の側に居てやりたいんだよ」


「……意味が分からないわ」


「東子は強い女だから。俺が居なくても平気だよね」


その直後、私は婚約者に、捨てられたのだ。
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