フィレンツェの恋人~L'amore vero~
私はこくりと頷き、ポインセチアを抱きしめてハルと同時に歩き出した。


大丈夫よ。


帰っても、ひとりじゃないもの。


変な子だけれど、ハルが居るもの。


ハルの存在が、少し大きくなっていた。


ふと視線を感じて顔を上げると、そこには華穂が立っていた。


「牧瀬ちゃん」


華穂は微笑んでいた。


それはそれは優しい目で、まるで母親が子供を見つめるような。


「良いクリスマスを」


爽やかに言い放ち、華穂は颯爽とした足取りで去って行った。


後に、華穂と多々関わる事になる事に、私はまだ気づきもしていなかった。


その時、最期の悪あがきと言わんばかりに、慎二が掴みかかって来た。


慎二が私の腕を引っ張り、振り向かせる。


「正気か、東子! 君は――」


「正気よ! 私はいつだって正気だわ!」


正気じゃないのは、慎二の方じゃない。


どんなに睨み付けても、慎二は我を見失った動物のようにひるむことは無かった。


「正気じゃないじゃないか! 目を覚ませ、東子!」


「これ以上、何をどうしろと言うの?」


「そんな若い男とうまくやって行けるはずないだろ」


「慎二には関係ない」


「美月にはちゃんと話す。別れる。だから、東子」


「まだそんな事! 離して!」


慎二の指は大蛇のようだ。


振りほどこうとすればするほど、慎二の指がコートごと肌に食い込んでくる。


まるで、縄のように。


「離して!」


私は、鉢をきつく抱きしめた。
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