フィレンツェの恋人~L'amore vero~
眩くて、私は目を細めた。
「ハル」
ハルの真っ黒な髪の毛先に付いた雪がキラリと輝いている。
「お兄さんみたいな人を、何て言うか分かる?」
そう言って、ハルは慎二の額に自分の額をピタリとくっつけた。
「教えてあげるね」
すすすうー、っと音を鳴らして、ハルが冬の空気を吸い込む。
「ケ!」
ケ?
次の瞬間、思わずポインセチアを落としそうになった。
地響きのような、いや、まるで地を真っ二つに割り裂くような声だった。
「ケ、セラ、セラ!」
天と地がひっくり返ってしまったのかと思った。
行き交う人波も、雑音も、風も、全ての動きと流れが。
ほんの一瞬にすぎなかったけれど、全てが停止した。
遠くでクリスマスソングが聞こえて、ハッとした。
人波が一気に動きを取り戻す。
風が、雪を巻いてくるくる回転しながら吹き抜けて行った。
がやがやと騒がしい雑音と話し声が、雪空に吸い込まれて行った。
街は再び時を取り戻したかのように、動き出していた。
「お兄さんみたいな人の事、ケセラセラっていうんだ」
振り向いたハルが、に、と私に微笑んでまたすぐに背中を向ける。
「いい? この先、東子さんの嫌がる事をしたら、許さないからね」
と、ハルが手を離すと、慎二は魂を抜かれたように顔面蒼白になって、
「一体……何だっていうんだよ」
口をぽかんと開けたままガクと膝から崩れ落ちて、雪上にへなへなと座り込んだ。
まるで、へたれだ。
見ていられなかったし、こんな慎二を見るのは嫌だった。
「さ、立って。東子さん」
ハルの手がすうっと差し出される。
「ハル」
ハルの真っ黒な髪の毛先に付いた雪がキラリと輝いている。
「お兄さんみたいな人を、何て言うか分かる?」
そう言って、ハルは慎二の額に自分の額をピタリとくっつけた。
「教えてあげるね」
すすすうー、っと音を鳴らして、ハルが冬の空気を吸い込む。
「ケ!」
ケ?
次の瞬間、思わずポインセチアを落としそうになった。
地響きのような、いや、まるで地を真っ二つに割り裂くような声だった。
「ケ、セラ、セラ!」
天と地がひっくり返ってしまったのかと思った。
行き交う人波も、雑音も、風も、全ての動きと流れが。
ほんの一瞬にすぎなかったけれど、全てが停止した。
遠くでクリスマスソングが聞こえて、ハッとした。
人波が一気に動きを取り戻す。
風が、雪を巻いてくるくる回転しながら吹き抜けて行った。
がやがやと騒がしい雑音と話し声が、雪空に吸い込まれて行った。
街は再び時を取り戻したかのように、動き出していた。
「お兄さんみたいな人の事、ケセラセラっていうんだ」
振り向いたハルが、に、と私に微笑んでまたすぐに背中を向ける。
「いい? この先、東子さんの嫌がる事をしたら、許さないからね」
と、ハルが手を離すと、慎二は魂を抜かれたように顔面蒼白になって、
「一体……何だっていうんだよ」
口をぽかんと開けたままガクと膝から崩れ落ちて、雪上にへなへなと座り込んだ。
まるで、へたれだ。
見ていられなかったし、こんな慎二を見るのは嫌だった。
「さ、立って。東子さん」
ハルの手がすうっと差し出される。