フィレンツェの恋人~L'amore vero~
マンションへ帰ってすぐに、私は窓辺にポインセチアを飾った。


夕方、料理をして、ハルと一緒に食べた。


「美味しい! 東子さんは料理がうまいんだね。ロベルトといい勝負だ」


初めて作ったパニーノを頬張りながら、ハルが言った。


「レタスとチーズと生ハムの割合が絶妙なんだ。ああ、このパスタも美味しい! ロベルトもびっくりだよ、これは」


フォークでパスタを器用に絡め取るハルを見て、思った。


ハルは綺麗な食べ方をする人だ。


きっと、きちんと躾をされて育ったのではないかと思った。


「あの、ハル?」


「何?」


「その、ロベルトって誰?」


「ああ……」


フォークを休めて、ハルが答えた。


「料理が趣味の、小さなおじさん」


「おじさんって」


「ああ! もうこれ以上は言いたくないよ」


聞かないで、とハルは再び口にパニーノを詰め込んだ。


「分かったわ。これ以上は聞かないから」


私はくすくす笑いながら、初めてジンジャーエールを飲んだ。


意外とイケる事が分かった。


食事を終えて後片付けを終えた頃はもう、外はすっかり暗くなっていた。


先にハルが、次に私が、その順番でお風呂に入った。


「ねえ、東子さん。今日もここで眠る?」


「ええ。そうする」


「じゃあ、ぼくもそうする」


ハルが寝室から毛布を引っ張り出して来て、また部屋を真っ暗にした。


そして、また一枚の毛布を分け合って、ソファーで寄り添って眠る事にした。


「ねえ、ハル」


「何?」


「今夜は、オリオンもアルテミスも見えないわね」


星も月も、出ていない真っ白な夜だ。


しんしんと雪が降り続いていた。


「そうだね」


と頷いたハルに、聞いてみた。
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