フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「今日、あなたが叫んだあの言葉の意味って」


「ああ、ケセラセラのこと?」


一枚の毛布の中で、ハルがもそもそと動いた。


「そう、あれ。どんな意味なのか知りたいの」


「いいよ」


ケセラセラ。


とても眠たそうな顔で、ハルが教えてくれた。


「ふたつの意味があるんだけどね。今日、ぼくが使ったケセラセラは、悪い意味の方」


「悪い方?」


「そう。良い意味だと、何とかなるさ、って陽気な意味なんだけど」


「悪い方は?」


くはは、とハルは面白可笑しそうに笑った。


「ちゃらんぽらん。そういう意味だよ」


暗がりの中でハルが、に、と笑う。


「だってそうでしょ? 東子さんという婚約者がありながら浮気をして子供まで作って。なのに、東子さんのとこに戻る気満々だなんて」


ケセラセラ、とハルはけらけらと笑った。


「ああ。なるほど」


ハルが本当に可笑しそうに笑うものだから、つられて私も笑ってしまった。


不思議な夜だった。


ひとつの恋が消えたのに、私は笑ってばかりいた。


ハルの目を見ていると、何かが始まろうとしているような気がして、わくわくした。


今年も終わろうとしているのに、何かが始まる気がする。


それが何なのかは分からないけれど。


窓辺に飾ったポインセチアの向こうは、私が着るはずだったウエディングドレスのような、深い純白の夜だった。





12/25 11:58
From 柏木 繭
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明日、お昼に会える?
頼みがあるの。
急でごめんなさい。
桔平の今後を左右する事なのよ。




そして、この事が、私の今後を大きく変える事になった。



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