フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「ええ。そうみたいですよー。困るんですよね、計画が狂っちゃうでしょ」


けだるそうに返事をしながら、彼女はもう一度あくびをした。


「実は私、昨日飲みすぎちゃって。だから、今日、早退しようと思ってたのになあ。美月さんが休んだから、無理でしょ」


「そうなの……珍しいわね」


美月は無断で会社を休むような子ではない。


私と顔を合わせたくなかったのだろう。


「何かあったんですかね。牧瀬さん、何か聞いてません?」


「え……私?」


平静を装って顔を上げると、


「だって、仲いいじゃないですか。牧瀬さんと美月さん」


彼女はまた、あくびをしていた。


「あ……何も。連絡もきてないわ」


「ふうん。連絡してみたらどうですか?」


「う、ん。そうね」


と返事しつつ、美月に連絡など入れる勇気もない。


美月だって、それを望んでいるに違いない。


だから、連絡はしなかった。











昼休み、会社近くのイタリアンで繭と落ち合った。


私はツナと水菜の和風パスタを、繭はたらこのクリームパスタを食べて、デザートを待っている時、


「ところで、東子。余計なお世話かもしれないけれど」


と繭が小声で切り出して来た。


「結婚前に、男関係は綺麗に片しておくべきだと思うの。わたし」


「え?」


「え? 、じゃないわよ。だって、そうなんでしょ?」


繭が目をギラつかせる。


「そう、って?」


もうっ、と繭がわたしの肩を小突いた。


「東子、橘さんと結婚するんでしょう? それなのに……クリスマスに男を部屋に連れ込んだんでしょ?」


ほら、スウェット、と繭が顔を近づけて来る。


「あ、うん、ええと」


実は、とわたしはあの夜の出来事を赤裸々に告白した。


勿論、結婚が破談になったことも。


「な、何よ、それっ!」


繭が顔を真っ赤に沸騰させて、許せない!、とテーブルを叩く。


「最低な男ね! 一発ぶんなぐって……」


「いいのよ、もう」


それより、と私は話題を変えた。


「昨日のメールの事だけど。どうしたの、桔平の今後を左右する、だなんて」

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