フィレンツェの恋人~L'amore vero~
本当にそうだと言い切れるのか、と聞きたげな目で繭が見つめて来る。


「な、い、わ」


じーっと見つめ返す。


降参したのは、繭だった。


「そうよねえ。ごめん、ごめん」


と今度はけらけらと笑い出す。


「でも、男と女なんてそんなものよ。いつ、心に変化が起きるか分からないと思うの。まして、同じ空間で生活なんてしていたら」


「もう……そんなに心配なら、一度会ってみる? その大きな目で確かめてちょうだい」


私は言い、くるくるとブラウン色に輝く繭の目を指さした。


「あんな変な子、私の趣味ではないもの」


「へん?」


そうよ。


そう。


ハルは、変な子だ。


「ええ、とっても変。それに、年下の男は論外よ」


だって、今時の若い子なのにスウェットもパプリカも知らなくて。


彼の親友は、老人だ。


たまに、どこの国か分からない話し方をするし、何も聞くなと言うし。


何て世間知らずなのかと思えば、計算機のように暗算をしたり。


だから、たぶん、ハルは頭が良い。


「とにかく。要らない心配しないで、繭。ほら、奏汰くんを迎えに行くんでしょう」


あっ、と声を漏らして時刻を確認し、


「大変!」


と繭は駆け出した。


「ああっ、東子」


そして、数メートル先で立ち止まり振り向いて、


「今夜はよろしく」


ぺこりと深く頭を下げて、去って行った。


「鷹司グループ、ねえ……」


繭の姿が見えなくなったのを確認して、私も踵を返す。


今夜だけの事。


どうって事はない、そう思い、自分に言い聞かせながら。

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