フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「これが良いね」


振り向くと、ハルがにっと笑っていた。


「そう? でも、シンプル過ぎると思うのだけれど」


レースがあしらわれているわけでもなければ、光沢感のある生地でもない。


のっぺりとした、ただの白いタイトワンピース。


だから良いのさ、とハルは得意げに言う。


「東子さんは背が高い。それでいて、スタイルもいい。だから、こういうシンプルな物で十分さ」


「でも、鷹司よ。プリンスホテルよ。フレンチディナーよ」


「フレンチのディナーは照明が暗めだからね。あとは何かデザイン性のあるタイツを合わせて、足元はエナメルのヒールにするといい。服装も大切だけど、男は意外と女性の足元を見ているものだからね」


こういう時、ハルが年上に見える。


紳士、だから。


「ほら、ね。とても似合う」


呆ける私の体にワンピースをあてがって、ハルが微笑む。


とても、満足そうに。


「あとはこれに、何か羽織るものがあると良い。黒いものが良いね」


「なんだか……慣れている感じね。スウェットもパプリカも、知らなかったくせに」


「まあね。細かい事は聞かないで。言いたくないんだ」


とハルは困ったような口調で言い、とにかくこれに着替えるように、と私にワンピースを押し付けて寝室を出て行った。


「へんな子……」


ハルの残り香が漂う部屋で、言われたように着替えて、リビングに向かった。


「ハル」


ソファーに座っていた彼の後姿に、言った。


振り向いたハルは何も言わずにただ微笑み、グッド、と親指を立てる。


窓の外はもうすっかり暗くなっていた。


大きなガラス窓にめかし込んだ私と、スウェット姿のハルが映り込んでいる。


ふむ、とハルは言う。


「あとは、アクセサリーかな」


「ネックレスなら、いくつかあるけど」


「いや。必要ない」


そう言ってハルは立ち上がり、サエキジロウが届けてくれた荷物をごそごそと探り始めた。


「あった」


そして、私の所へ来ると、


「後ろを向いて」


と私をくるりと半回転させた。


「何?」

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