フィレンツェの恋人~L'amore vero~
絶世の美女だが、氷のように冷たい心を持つ皇帝の娘、トゥーランドット。


「舞台は中国、北京。時は伝説の時代」


と煌さんはテーブルに片肘をついて、続ける。


「彼女は、言う」


『3つの謎を解いた者を夫として迎えるが、その謎を解けなかった者は斬首の刑とす』


だが、いつまで経っても謎を解ける者は出て来ない。


毎日、斬首の刑で死者が後を絶たない。


しかしだ、と煌さんは言う。


「それでも、夫になりたがる男は後を絶たない。トゥーランドットはそれほど美しかったのだから。彼女が出した、謎」


1.毎夜に心によみがえるのは?


2.燃え上がるが火ではないのは?


3.火をつける氷とは?


3つの謎の答えを思い出せますか? 、という彼の問いに私はひとつも答えられなかった。


「何、でしたっけ? 思い出せません」


本当に、すっかり忘れてしまっていた。


「1。毎夜に心によみがえるのは、希望。2。燃え上がるが火ではないのは、血潮。3。火をつける氷とは」


それは、と煌さんが答えを言おうとした時、


「待って。分かったわ!」


私の脳裏に、5年前に母と観たオペラのシーンが鮮明に蘇った。


私と煌さんはお互いを指さし、そして、


「「トゥーランドット!」」


声を重ねた。


正解です、と煌さんが微笑む。


私もつられて笑った。


「でも、確か」


と、私は記憶の細い糸をたぐり寄せながら、続けた。


「たったひとりだけ、その謎を解いた男性がいましたよね」


はい、と煌さんが頷く。


「ダッタンの元国王で放浪の身だったティムールの、生き別れになっていた息子です。名は、カラフ」


カラフはトゥーランドットを一目見て、その美しさに魅せられ、謎解きに挑戦すると言い出した。
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