フィレンツェの恋人~L'amore vero~
見惚れてしまうのも無理はない。


華穂は明るく活発で、爽やかで、異性だけでなく同性からの人気が高い。


「ねえ、牧瀬ちゃん。今日、ランチに行こう」


細身のスタイルをさらに際立たせるグレーのストライプ柄のパンツスーツに、アクアブルー色のシャツ。


「本当に突然ね。どうしたの。華穂がランチに誘ってくれるなんて。珍しいわね」


さっぱりとしたショートヘアー。


小ぶりの耳にさり気なく輝く、シンプルなピアス。


「ほら、明日から休みに入るじゃない」


はきはきと動く、薄紅色の唇。


こげ茶色の短い髪の毛を耳に掛け直して、華穂は爽やかに続けた。


「今年最後のランチは、牧瀬ちゃんと行きたいなと思って。久しぶりにどう?」


切れ長な形の目だけれど大粒の瞳に、すらりとした8等身で、正統派美人。


華穂に憧れて移動願いを出す女子社員は、毎年後を絶たない。


「行く」


私が微笑むと、華穂は「おすすめのお店があるの」と笑った。


「そこに行こう」


華穂は何でもテキパキと物事を決める。


優柔不断な男性よりも、男らしい。


それでいて、妙な色っぽさもあって、本当に素敵だと思う。


華穂と話し込んでいると、


「いたーっ! 小嶺チーフ!」


青ざめた顔の若い男性社員が書類をぶんぶん振り回しながら、走って来た。


「どうしたの、町田くん」


「あのっ……あのですねえっ」


はふはふ、息を弾ませながら話す彼を見て平賀彰子がボツリと呟いた。


「ださ……」


彼は華穂の部下で、まだ新人らしい。


「実は、クライアントから今回の企画の件でクレームの電話が入っていて」


「なにーっ! あんの、じじい! 何回説明すれば気が済むのよ!」


くっそー、なんて平気で言う華穂もまた、妙にかっこよかったりする。


「で、今回はどんなクレーム付けてきたの?」


ずいっと詰め寄る華穂に、彼はしゅるしゅると小さくなった。

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