フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「それが……何を言っているのかイマイチ分からないと言うか……率直に言いますと、言葉の壁が」


「もうっ! あんたは勉強が足らん!」


「すみません!」


「オッケ。いいわ、私が話す」


華穂のたくましい横顔を見つめながら、私はくすくす笑った。


本当にかっこいい女だわ。


「じゃあ、牧瀬ちゃん。お昼にね」


そう言って、華穂はおどおどする彼に、


「しゃんとせんか! 情けない!」


と大きな声で喝を入れながら走り去った。


「素敵ですねえ。いつ見てもかっこいい。やっぱり憧れちゃいますよねえ」


平賀彰子は言い、うっとりした目で去って行く華穂の後姿を見つめていた。













「牧瀬ちゃん、お正月は実家に帰るの?」


「今年は帰らないわ」


「あら、どうして?」


「たまには自分の時間を満喫する年末年始も悪くないかな、って。華穂は?」


「し、ご、と」


「大変ね」


昼休み、わたしと華穂は約束通り、会社の近くのカフェでランチをしていた。


店は360°ガラス張りで、冬の陽射しが木漏れ日のように入り、とても明るい。


シンプルだけれど、店内のあちこちに観葉植物が飾られていて、まさに華穂のように爽やかな雰囲気だ。


旅行客だろうか。


足の長いダークグリーン色の瞳の外国人が座る隣のテーブル席に、私たちは向かい合って座っていた。


外国人男性は、地図をじっと見つめて時折小首をかしげる仕草を繰り返してばかりいる。

< 157 / 415 >

この作品をシェア

pagetop