フィレンツェの恋人~L'amore vero~
課の女の子たちの話だとね、と華穂が顔を近づけてくる。


「略奪愛の末に授かったお腹の子。どうも、また別の男の子供だとか、何とか」


「……え?」


思わず身を乗り出した時、隣の席の外国人男性が、


「スミマセン!」


通りかかった店員を呼び止めて、


「Sil vous plait(すみません)……アノ……」


ぺらぺらと異国語で話し出した。


アルバイトだろうか。


若い男性の店員が、


「えっ……ハロー? ああ、どうしよう」


と言葉の壁に困り果てている。


「Non、Anglais(英語は話せません)」


「スィルブプレ、ですって。確か、フランス語よね? 英語なら話せるんだけれど」


私はひそひそと華穂に耳打ちをした。


「日本語と英語以外はまったくできないのよ、私」


こんな時、さらりと手を伸べてあげられたら素敵なのだろうけれど。


「ああ、私は英語が苦手なの。全然だめ」


と華穂は言い、


「でも、フランス語は少々」


私にウインクを投げて、男性に声を掛けた。


「Bonjour,Que puis-je faire pour vous?(どうしましたか?)」


「Oh」


男性はダークグリーンの目を大きく見開いて、華穂を見つめた。


「vous parler francais?(フランス語を話せるの?)」


「Oui(はい)」


華穂が微笑むと男性はぱあっと笑顔になり、ガイドブックの地図を開いてずいっと差し出した。


「hotel Royal!(ロイヤルホテル)」


ホテルロイヤルって……この先にあるロイヤルホテルの事を言っているのかしら。
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