フィレンツェの恋人~L'amore vero~
高校生がこんな夜に、こんな陰気くさい場所で、学生服だけの無防備な姿で何をしているのだろう。


「ねえったら」


さすがに見過ごす事が、私にはできなかった。


「凍死しても知らないわよ」


蹲る彼の肩をゆすった時、その存在に気づいた。


「何、これ」


蹲る彼は首から麻ひものような物に、厚手の紙をぶら下げていた。


何か、文字が書かれている事に気付き、鞄から携帯電話を取り出してその明りを当ててみた。




あなたを信じます
ぼくを拾ってください   ポチ




「ポチ、って……」


面倒な事に触れてしまった気がした。


拾ってください、だなんて。


この子、家出でもしたのだろうか。


最低なクリスマスイヴに、今度は面倒な事に巻き込まれるのはごめんだ。


「こんなつまらない事していないで、家に帰りなさい」


私はとっさに紙を手離し、先を急いだ。


でも、と立ち止まる。


振り返ると、そこにはやっぱり膝を抱きしめて蹲る姿があった。


動くような気配は、ない。


私は小さく息を落とした。


気温は……零度、といったところか。


日付が変わる頃には氷点下になるかもしれない。


そして、あの子は凍死するかもしれない。


「ねえ、ポチ」


声を掛けると、彼の肩が動いた。


ポチ、を連れて帰る、というのはどうだろう。


そうすれば、ポチは凍死せずに済む。


私は感謝される側なのではないだろうか。


ポチの両親にはもちろん、友達や、ポチに携わる人々から。


「見ず知らずの人間を、あなたは信じるというの? 人間てね、恐ろしい魔物なのよ。簡単に、裏切る」


それより、何より。


ポチを拾えば、今夜、私は一人で過ごさずに済む。


あのマンションで、孤独にならずに済む。


「私も裏切ると思うわ、きっと。恐ろしい人間だもの。それでも信じるというのなら、立って」

< 17 / 415 >

この作品をシェア

pagetop