フィレンツェの恋人~L'amore vero~
彼は微かな声ひとつ出さず、まるで操り人形のように、すうっと美しい仕草で立ち上がった。
背の高い、男の子だった。
背の高い慎二よりも、もっと高い。
「そう。私を、信じてくれるの」
彼はうつむいたまま、雪をかぶった頭をかくりと下げた。
その耳元で、銀色のピアスがくるりと輝く。
「今日、私は、あなたを拾います」
着いて来て、と歩き出した私に数メートル距離を置きながら、ポチは無言のまま本当に着いて来た。
なぜ、こんな所に居るの?
一体、何をしていたの?
家出?
「クリスマスイヴなのに」
家は近いの?
歳はいくつ?
幾つ質問を投げても、ひとつとして返って来る事はなかった。
ポチはただ、私の後ろをひたひたと着いて来た。
後ろに、誰かが居る。
それは、見ず知らずの人間なのに。
不思議な事に、安心感が生まれていた。
カツカツカツ、カツ。
私が立ち止まると、背後の足音もヒタリと止まる。
カツ……、私が歩き出すと、ひたひたと歩き出す。
まるで、駆け引きみたいだと思った。
腹の探り合いでもしている気分だった。
湿ったカビ臭い路地を抜けて、マンションの共同玄関前で私は立ち止まり、振り返った。
明明とした光が降る街灯の真下で、ポチは下を向いたまま立ち止まる。
「私、どうかと思うの」
話しかけても、やはり返事は愚か、反応すらない。
背の高い、男の子だった。
背の高い慎二よりも、もっと高い。
「そう。私を、信じてくれるの」
彼はうつむいたまま、雪をかぶった頭をかくりと下げた。
その耳元で、銀色のピアスがくるりと輝く。
「今日、私は、あなたを拾います」
着いて来て、と歩き出した私に数メートル距離を置きながら、ポチは無言のまま本当に着いて来た。
なぜ、こんな所に居るの?
一体、何をしていたの?
家出?
「クリスマスイヴなのに」
家は近いの?
歳はいくつ?
幾つ質問を投げても、ひとつとして返って来る事はなかった。
ポチはただ、私の後ろをひたひたと着いて来た。
後ろに、誰かが居る。
それは、見ず知らずの人間なのに。
不思議な事に、安心感が生まれていた。
カツカツカツ、カツ。
私が立ち止まると、背後の足音もヒタリと止まる。
カツ……、私が歩き出すと、ひたひたと歩き出す。
まるで、駆け引きみたいだと思った。
腹の探り合いでもしている気分だった。
湿ったカビ臭い路地を抜けて、マンションの共同玄関前で私は立ち止まり、振り返った。
明明とした光が降る街灯の真下で、ポチは下を向いたまま立ち止まる。
「私、どうかと思うの」
話しかけても、やはり返事は愚か、反応すらない。