フィレンツェの恋人~L'amore vero~

ジレンマ

1月4日。


朝起きた時にはもう、雨が降っていた。


暗雲立ち込める、暗くて寒い朝だった。


冬の夜明けが遅いのはどうしてなのだろう。


AM 5:00


いつもより、だいぶ早く目が覚めてしまった。


右側がやけにすかすかしていたからなのかもしれない。


目を覚ますと、隣で眠っていたはずのハルが居なかった。


トイレかもしれないと思って再び目を閉じた時、


「……trasfigurazione dei caratteri(文字化けしているんだ)……illeggibile(読めない)」


苛立った声が、寝室から聞こえた。


ハルの声だった。


「si ,ordinare(うん、頼むよ)」


外はまだ暗い。


こんな朝早くから何をしているのかしら。


サエキジロウと電話でもしているのだろうか。


私は毛布から抜け出して、窓辺にある小さな電器スタンドに明りをつけた。


「……あら……?」


そして、ハルの荷物がいつもと違う事に気付いた。


リビングの隅にきちっと並べて置いてある、2つの大きな荷物。


1つがなくなっていた。


そして、てん、てん、てん、と手前から携帯電話の充電器、何かのコード、SDカードの順番で寝室に道しるべができている。


ハルはとても用心深く荷物を管理している。


だから、こんなふうに無防備にするような子ではないのに。


ひどく慌てていたのだろうか。


私はスタンドの明りを消し、足音を立てないように細心の注意を払いながら、暗がりの中を寝室に向かった。


「Quanto tempo ci vuole?(どのくらい時間がかかりそうなんだ)」


何を言っているのかは分からないけれど、その声は真剣極まるものだった。


険しささえ感じられるほど。

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