フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「行ってらっしゃい」
私は笑顔を返して、交差する人の流れをぼんやりと眺める。
あの人とか、その人……例えば、この人は。
人間を拾った事はあるのかしら。
無いわよね、普通。
犬や猫ならまだしも、人間をだなんて。
人間を拾った私は……。
「普通じゃないわよ……」
その時、
「ままま牧瀬さん! 牧瀬さんっ!」
ランチへ行ったはずの平賀彰子が顔色を変えて、受付カウンターの中に戻って来た。
「どうしたの?」
聞いたと同時に、フロアーにざわめきが起こった。
ざわあっと妙な空気に包まれた。
社員たちは皆立ち止まり、その視線が自動ドアの外に向けられる。
「……何? どうしたのかしら」
あふれる社員たちの先で、自動ドアが開く。
空気がまた一変した。
わあっとわいた騒がしいフロアーが、しんと静まり返った。
「あの、牧瀬さん」
平賀彰子がひそひそと私に耳打ちをした。
「この間は私、何も知らなかったんですよ。本当に」
「何のこと?」
「お正月の番組で初めて知ったんですよ。すみません」
「……お正月?」
水を打ったように静まり返ったフロアーに、コツ……コツ……と足音だけが響く。
「ねえ、あの人って」
小声で話す私と平賀彰子の真横で、若い女子社員たちがこそこそと話し始めた。
「正月番組に出てなかった? ほら、2日のやつ。そうだよね?」
「あ、見た? 私も見た」
「なんでうちの会社に?」
「……その前に、なんで日本にいるの?」
カツ、コツ、と足音が接近してくるにつれて、人だかりが左右にはけて道を開ける。
「……へっ」
私は間抜けな声を漏らして、息を止めた。
私は笑顔を返して、交差する人の流れをぼんやりと眺める。
あの人とか、その人……例えば、この人は。
人間を拾った事はあるのかしら。
無いわよね、普通。
犬や猫ならまだしも、人間をだなんて。
人間を拾った私は……。
「普通じゃないわよ……」
その時、
「ままま牧瀬さん! 牧瀬さんっ!」
ランチへ行ったはずの平賀彰子が顔色を変えて、受付カウンターの中に戻って来た。
「どうしたの?」
聞いたと同時に、フロアーにざわめきが起こった。
ざわあっと妙な空気に包まれた。
社員たちは皆立ち止まり、その視線が自動ドアの外に向けられる。
「……何? どうしたのかしら」
あふれる社員たちの先で、自動ドアが開く。
空気がまた一変した。
わあっとわいた騒がしいフロアーが、しんと静まり返った。
「あの、牧瀬さん」
平賀彰子がひそひそと私に耳打ちをした。
「この間は私、何も知らなかったんですよ。本当に」
「何のこと?」
「お正月の番組で初めて知ったんですよ。すみません」
「……お正月?」
水を打ったように静まり返ったフロアーに、コツ……コツ……と足音だけが響く。
「ねえ、あの人って」
小声で話す私と平賀彰子の真横で、若い女子社員たちがこそこそと話し始めた。
「正月番組に出てなかった? ほら、2日のやつ。そうだよね?」
「あ、見た? 私も見た」
「なんでうちの会社に?」
「……その前に、なんで日本にいるの?」
カツ、コツ、と足音が接近してくるにつれて、人だかりが左右にはけて道を開ける。
「……へっ」
私は間抜けな声を漏らして、息を止めた。