フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「どこの誰か分からない男を拾うなんてさ。ある意味、自殺行為だよ。不用心だね。大人のくせに」
私はムッとした。
ようやく話す気になったのかと思ったら、この生意気さなのだ。
「何よ。ついて来る方もついて来る方だと思うわ。私がどんな人間なのか、分からないくせに」
どんな女なのか、分からないくせに。
「よく、知らない女について来たものだわ」
「お互い様だよ」
フフ、とハルが小さく声を漏らした。
すぐに
ドキドキした。
「ぼくも、東子さんも。お互いに世間知らずの、非常識者だよ」
切れ長のエキゾチックな目。
黒濃く、長いまつ毛。
「だから、今夜、出逢ったのかもしれない」
私を見つめるその瞳は、理性を失う寸前の野生の獣のような、どしりと据わったものだった。
「……とにかく、凍死でもされたら嫌なの。すぐにお風呂を沸かすから。ついて来て」
「そのつもり」
容姿端麗。
そこらの大人よりも落ち着きがある。
話し方、言葉使い、仕草。
ハルの容姿は「草食」という言葉がぴったりなのに。
「ねえ。東子さん」
だけど、なぜ、ハルはそんな野蛮な目をしているのか。
それが何よりも知りたかったし、興味があった。
「なぜ……ぼくを、拾ったの?」
クリスマス・イヴの夜の街が、雪色に染まって行く。
「知らないふりだってできたでしょ? なぜ、ぼくを拾ったの?」
私にはそんな事、始めからできるはずがなかったんだわ、きっと。
捨てられた私が、見捨てるなんて。
慎二にだけじゃない。
慎二の一度だけじゃない。
二度も捨てられたわたしが、ハルを見捨てるなんて……。
捨てられる側に気持ちが分かるから。
私はムッとした。
ようやく話す気になったのかと思ったら、この生意気さなのだ。
「何よ。ついて来る方もついて来る方だと思うわ。私がどんな人間なのか、分からないくせに」
どんな女なのか、分からないくせに。
「よく、知らない女について来たものだわ」
「お互い様だよ」
フフ、とハルが小さく声を漏らした。
すぐに
ドキドキした。
「ぼくも、東子さんも。お互いに世間知らずの、非常識者だよ」
切れ長のエキゾチックな目。
黒濃く、長いまつ毛。
「だから、今夜、出逢ったのかもしれない」
私を見つめるその瞳は、理性を失う寸前の野生の獣のような、どしりと据わったものだった。
「……とにかく、凍死でもされたら嫌なの。すぐにお風呂を沸かすから。ついて来て」
「そのつもり」
容姿端麗。
そこらの大人よりも落ち着きがある。
話し方、言葉使い、仕草。
ハルの容姿は「草食」という言葉がぴったりなのに。
「ねえ。東子さん」
だけど、なぜ、ハルはそんな野蛮な目をしているのか。
それが何よりも知りたかったし、興味があった。
「なぜ……ぼくを、拾ったの?」
クリスマス・イヴの夜の街が、雪色に染まって行く。
「知らないふりだってできたでしょ? なぜ、ぼくを拾ったの?」
私にはそんな事、始めからできるはずがなかったんだわ、きっと。
捨てられた私が、見捨てるなんて。
慎二にだけじゃない。
慎二の一度だけじゃない。
二度も捨てられたわたしが、ハルを見捨てるなんて……。
捨てられる側に気持ちが分かるから。