フィレンツェの恋人~L'amore vero~
トイレもキッチンも、一応、バスルームも。
もう一度、寝室を。
どこもかしこもくまなく探した。
でも、どこを探してみても、ハルの姿は無く、その気配さえ無いのだ。
『東……どうし……と……』
握りしめている携帯電話からこぼれるように、桔平の心配そうな声が漏れて、辺りに散らばっていく。
携帯電話を握りしめながら、ぺたりぺたりとリビングに向かう。
ハルの荷物はそのままだし、スーツもある。
でもやっぱり、無くなっている物に気付いた。
真っ黒のダウンジャケットが無い。
どくん、どくん、どくん。
不安が、波のように押し寄せて来る。
手に、不快な汗を握りしめながら、その名を呼ぶ。
「ハル!」
大きな声を出しても、返って来るのは静寂だけだった。
怖かった。
「ねえ! ハル!」
怖くて、怖くて。
いいえ。
恐ろしくて、唇が震えた。
そうだ、靴。
ハッとして、私は急いで玄関へ走った。
私のブーツ、パンプス、サンダル、スニーカー。
私の。
これも。
私の。
これも、これも、これも。
「全部、私の……」
動揺した。
ハルの履物が。
「……ない」
一気に力が抜けて、手から携帯電話がつるりと抜け落ちる。
ゴトリ、と床に落ちた携帯電話から、桔平の声が漏れ出していた。
『東子? どうした、東子!』
ざわりとした不快な感触が、虫唾のように背中を這って行く。
「……嫌!」
気付いた時、私は金切り声を上げながら部屋を飛び出していた。
真冬だという事も忘れて、上着も羽織らず、しかも、裸足で。
「ハル!」
最上階のフロアーを一目散に駆け抜けて、エレベーターは使わずに、冷え切った氷のような階段を素足で駆け下りた。
もう一度、寝室を。
どこもかしこもくまなく探した。
でも、どこを探してみても、ハルの姿は無く、その気配さえ無いのだ。
『東……どうし……と……』
握りしめている携帯電話からこぼれるように、桔平の心配そうな声が漏れて、辺りに散らばっていく。
携帯電話を握りしめながら、ぺたりぺたりとリビングに向かう。
ハルの荷物はそのままだし、スーツもある。
でもやっぱり、無くなっている物に気付いた。
真っ黒のダウンジャケットが無い。
どくん、どくん、どくん。
不安が、波のように押し寄せて来る。
手に、不快な汗を握りしめながら、その名を呼ぶ。
「ハル!」
大きな声を出しても、返って来るのは静寂だけだった。
怖かった。
「ねえ! ハル!」
怖くて、怖くて。
いいえ。
恐ろしくて、唇が震えた。
そうだ、靴。
ハッとして、私は急いで玄関へ走った。
私のブーツ、パンプス、サンダル、スニーカー。
私の。
これも。
私の。
これも、これも、これも。
「全部、私の……」
動揺した。
ハルの履物が。
「……ない」
一気に力が抜けて、手から携帯電話がつるりと抜け落ちる。
ゴトリ、と床に落ちた携帯電話から、桔平の声が漏れ出していた。
『東子? どうした、東子!』
ざわりとした不快な感触が、虫唾のように背中を這って行く。
「……嫌!」
気付いた時、私は金切り声を上げながら部屋を飛び出していた。
真冬だという事も忘れて、上着も羽織らず、しかも、裸足で。
「ハル!」
最上階のフロアーを一目散に駆け抜けて、エレベーターは使わずに、冷え切った氷のような階段を素足で駆け下りた。