フィレンツェの恋人~L'amore vero~
彼は、私の、光だった。
不器用で、つたなくて、だけど、優しい灯だった。
いいえ。
彼は、私の、煌めきだった。
――Pourquoi pleures-tu?(なぜ君が泣くの?)
――J'ai fait “Heart break”(振られたのは僕なのに)
――au revoir,Kaho(さようなら、華穂)
最初から、最後まで。
出逢ったあの日から、別れのあの瞬間まで。
煌めきだった。
例えるなら、夏の夕暮れ時。
空から落下する真っ赤な果実。
西日が乱舞する海の水面のような、明減する光だった。
出逢ったあの頃の彼は天真爛漫で明るくて、いつも素直に笑っている人だった。
大切な話をするときは毅然としていて、スマートで、相手の目を真っ直ぐに見つめて話す人だった。
同性からも異性からも訳隔たりなく好かれる人だった。
けれど。
パリ・16区。
北に凱旋門、西にブローニュの森、東にセーヌ川。
高級住宅街がある、ヴィクト・ユーゴ通り。
12月24日。
ノエル。
その優雅で閑静な住宅街に純白の雪が舞った、夜。
「mere(母さん)……me……母さん!」
全ての悲劇の始まりを知らせる銃声音が轟き、響き渡り、冷たい冬の夜空に吸い込まれて行った。
「Appelez un S.A.M.U!(救急車を呼んでくれ!)……Non……la Police(いや、警察だ)……Au secours!(助けてくれ!)」
真っ白な雪は血で赤く染まり、その惨劇が、純粋無垢だった彼を180度、変えてしまった。
その日を境に、彼は極端に口数が減り、その気品のある顔からは本物の笑みが消えてしまった。
「un monde pourri……(腐った世界だ)」
それが彼の口癖になった。
いつも見えない敵の群衆にたったひとりで立ち向かい、闘って、傷を負って。
傷だらけになっても、それでも闘い続ける。
例えるなら、こうだ。
不器用で、つたなくて、だけど、優しい灯だった。
いいえ。
彼は、私の、煌めきだった。
――Pourquoi pleures-tu?(なぜ君が泣くの?)
――J'ai fait “Heart break”(振られたのは僕なのに)
――au revoir,Kaho(さようなら、華穂)
最初から、最後まで。
出逢ったあの日から、別れのあの瞬間まで。
煌めきだった。
例えるなら、夏の夕暮れ時。
空から落下する真っ赤な果実。
西日が乱舞する海の水面のような、明減する光だった。
出逢ったあの頃の彼は天真爛漫で明るくて、いつも素直に笑っている人だった。
大切な話をするときは毅然としていて、スマートで、相手の目を真っ直ぐに見つめて話す人だった。
同性からも異性からも訳隔たりなく好かれる人だった。
けれど。
パリ・16区。
北に凱旋門、西にブローニュの森、東にセーヌ川。
高級住宅街がある、ヴィクト・ユーゴ通り。
12月24日。
ノエル。
その優雅で閑静な住宅街に純白の雪が舞った、夜。
「mere(母さん)……me……母さん!」
全ての悲劇の始まりを知らせる銃声音が轟き、響き渡り、冷たい冬の夜空に吸い込まれて行った。
「Appelez un S.A.M.U!(救急車を呼んでくれ!)……Non……la Police(いや、警察だ)……Au secours!(助けてくれ!)」
真っ白な雪は血で赤く染まり、その惨劇が、純粋無垢だった彼を180度、変えてしまった。
その日を境に、彼は極端に口数が減り、その気品のある顔からは本物の笑みが消えてしまった。
「un monde pourri……(腐った世界だ)」
それが彼の口癖になった。
いつも見えない敵の群衆にたったひとりで立ち向かい、闘って、傷を負って。
傷だらけになっても、それでも闘い続ける。
例えるなら、こうだ。