フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「Je m'appelle Josette Anger.(私はジョゼット・アンジェよ) Et vous?(あなたは?)」


「Je m'appelle Kaho Komine(私は小嶺華穂)」


「Ka,ho?」


「Oui. je suis japonais(そうよ。私は、日本人です)」


「Oh! japonais. Kaho,mignon(華穂って可愛いわね)」


パリコレモデル顔負けの抜群のスタイルと、雑誌から飛び出して来たようなすらりとした長身。


ビターチョコレート色の髪の毛は、少年のようなベリーショートで。


美人なのにさばさばしていて、見た目も性格もボーイッシュな彼女が、パリで初めての友達だった。


そんなジョゼットには年上の素敵な彼氏がいて、交際してもう5年になるのだそうだ。


週末になると決まって、ジョゼットの素敵な恋人は、私たちのアパートに訪れる。


いつも、パリで人気のバケットだったり、スイーツを私とジョゼット二人分を手土産に。


パスカル、という名前の彼は社会人で、笑顔が爽やかな優しくて親切な人だった。


ルームメイトが生粋のフランス人だったことは、私にとってとても刺激的で有難いことでもあったのだ。


ジョゼットのおかげで、同じ語学留学生の中でも私のフランス語はうなぎ上りに上達していったのだから。


パリはセーヌ川を挟んで北側を右岸、南側を左岸に分けている。


右岸はビジネス中心地で、高級住宅街や観光名所が建ち並んでいた。


私が生活をしていた左岸は名門大学や、若者向けのファッションブティックが軒を連ねている。


「同じパリでもね、セーヌ川を挟んで高級志向の右岸派と、文化的で小さな生活を好む左岸派があって、住民の個性も違うらしいわよ」


学校で仲良くなった韓国人留学生のユン・ウンソから、


「きっと、右岸と左岸では価値観も違うんでしょうね。ねえ、華穂はどう思う?」


そんな事を聞かされていた私は、知らず知らずのうちに右岸は敷居の高い地域なのだと決めつけていたのかもしれなかった。

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