フィレンツェの恋人~L'amore vero~
いい?    


あなたはいいかもしれないけれど、こっちは心配で恐ろしくてたまらないわ。


気が気じゃないのよ。


フランス人である私がこんなこと言いたくないけれど。


この国が絶対に安全だと胸を張れる自信なんて、どこにも無いもの。


もし、万が一、あなたの身に何かあったら。


私は、あなたのご両親に何て言えばいいのか。


おそらく、そんな感じの事をジョゼットは言っていたのだと思う。


あまりにも早口で、正直、何を言っているのか半分くらいしか理解できなかったけれど。


「he,Kaho……」


私は意地悪で言っているんじゃなにのよ、とジョゼットは華奢な肩をすくめた。


「Oui」


分かっている。


ジョゼットが意地悪な子じゃないことも、本当に心から私の心配をして言ってくれているということだって。


ジョゼットは同い年とは思えないほどしっかり者で、とても面倒見が良くて、いちばんに友人関係を大切に思っているような子なのだ。


「mais,aller (でも、行くわ)」


それでもききわけのない私に、


「avoir des vertiges……(眩暈がするわ)」


と、ジョゼットは目頭を押さえて、ふかふかのソファーに背中から倒れ込んだ。


それでもしつこく説得していると、


「D'accord (オーケー)」


なら、いい方法がひとつだけあるかもしれない、と私とジョゼットの間に割って入って来たのはパスカルだった。


パスカルの瞳は、深い深い湖のようなエメラルドグリーン色で、不思議と心が休まるのだった。


冷静になれるのだ。


特に、その穏やかな優しい話し方が。


「Kaho」


パスカルは私の頭を弾くように優しい力で撫でて、


「Tu es ambitieux (君は野心家なんだね)」


日本の女の子はおてんばなのかな、と笑った。


そして、携帯電話で誰かにコンタクトを取り、手短に話し終えたあと、私に条件を提示してきた。
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