フィレンツェの恋人~L'amore vero~
プルルルル……、プルルルル……
リビングいっぱいに響いた自宅電話の音で、ハッと我に返った。
慌てて二冊のパスポートを内ポケットに押し込んだ。
私、何をしようとしていたの。
人のプライバシーに土足で踏み込もうとするなんて。
他人の携帯電話をチェックするのと同じだ。
「最低だわ」
知りたいなら、ハルに直接聞けばいいのだから、こんな卑怯な事は駄目だ。
プルルルル……、プルルルル……
私は急いで受話器を取った。
「もしもし」
すると、受話器の向こうから聞こえるのは、久しぶりの無邪気な声だった。
『わっ! 出た!』
「ちょっと……出た、って。人を幽霊みたいに言わないでよ。繭」
柏木 繭(かしわぎ まゆ)は、私の唯一の親友だ。
気付いた時にはもう、繭は親友だった。
『ごめんごめん。だって、本当に出ないと思ってたから』
繭は、私が住んでいるこのマンションの近くに住んでいる。
三年前に結婚して、今は一児の母だ。
「どうしたの? 何かあった? 別に携帯に掛けてくれても良かったのに」
クスクス笑いながら聞くと、クリスマスだからよ、と繭は続けた。
『クリスマスだから。ほら、慎二さんだっけ? 彼と一緒に居るのかと思って。携帯はまずいかなあって』
本当の事はまだ、繭にも打ち明ける気になれなかった。
「ああ……平気よ。今日は一緒じゃないから」
だって、別れたもの。
なんて、さすがにあっさりと言う気分ではなかった。
『なあんだ。東子も同じか。クリスマスなのに』
「何よ、繭。桔平は?」
少しの間の後返って来たのは、明らかに不機嫌な声だった。
『急な取材でね。帰りは午前様よ、きっと』
リビングいっぱいに響いた自宅電話の音で、ハッと我に返った。
慌てて二冊のパスポートを内ポケットに押し込んだ。
私、何をしようとしていたの。
人のプライバシーに土足で踏み込もうとするなんて。
他人の携帯電話をチェックするのと同じだ。
「最低だわ」
知りたいなら、ハルに直接聞けばいいのだから、こんな卑怯な事は駄目だ。
プルルルル……、プルルルル……
私は急いで受話器を取った。
「もしもし」
すると、受話器の向こうから聞こえるのは、久しぶりの無邪気な声だった。
『わっ! 出た!』
「ちょっと……出た、って。人を幽霊みたいに言わないでよ。繭」
柏木 繭(かしわぎ まゆ)は、私の唯一の親友だ。
気付いた時にはもう、繭は親友だった。
『ごめんごめん。だって、本当に出ないと思ってたから』
繭は、私が住んでいるこのマンションの近くに住んでいる。
三年前に結婚して、今は一児の母だ。
「どうしたの? 何かあった? 別に携帯に掛けてくれても良かったのに」
クスクス笑いながら聞くと、クリスマスだからよ、と繭は続けた。
『クリスマスだから。ほら、慎二さんだっけ? 彼と一緒に居るのかと思って。携帯はまずいかなあって』
本当の事はまだ、繭にも打ち明ける気になれなかった。
「ああ……平気よ。今日は一緒じゃないから」
だって、別れたもの。
なんて、さすがにあっさりと言う気分ではなかった。
『なあんだ。東子も同じか。クリスマスなのに』
「何よ、繭。桔平は?」
少しの間の後返って来たのは、明らかに不機嫌な声だった。
『急な取材でね。帰りは午前様よ、きっと』