フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「仕方ないわよ。桔平だって気にしてると思うもの」


『そうかなあ……仕事命だから。桔平は』


繭の愚痴を聞いて電話を切った後、私はすぐにリダイヤルを押した。


「もしもし? 繭? お願いがあるの」


『何? どうしたの?』


「桔平って、身長いくつだっけ?」


『えっ……と、確か。ひゃく……』


バスルームの方から、シャワーの音がしていた。


繭との電話を終えてすぐ、私はリビングの上に目立つようにメモ書きを置いて、コートも羽織らずにマンションを飛び出した。


「わっ……さむ……」


外は、雪だった。





ハル へ


すぐに戻ります

本当にすぐに戻ります  東子











小さいけれど、まだ新築の一戸建てのインターフォンを押すと、すぐに繭が顔を出した。


繭はすっぴんでも、可愛らしい。


同じ二十五とは思えないほどの幼顔で、他人から見たら二十歳くらいに見えるのではないかと思う。


「東子! そんな薄着で来たの?」


「ごめんなさい、繭。突然、こんなお願いして」


ぺこりと頭を下げると、繭は微妙な表情を浮かべた。


「私はいいけど。私は、ね。こんな物でいいのなら、いつでも貸すけど」


そう言って、繭は紙袋を差し出してきた。


「ありがとう、助かったわ。もう、この時間は店も閉まっているから」


それを受け取って、


「本当に助かるわ。ありがとう」


もう一度、頭を下げる。


「スウェット、洗濯してあるから。でも、下着はさすがにね。サイズが合うか保証できないけど、新品だから」


「何から何まで、ありがとう」


顔を上げると、繭は呆れたような顔で笑っていた。
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