フィレンツェの恋人~L'amore vero~
二十五年も生きていれば自然とそういう流れになる。
男の裸を見たところで動じなくなったのはいつだったのか、それすら思い出せない。
「それなりの恋をしてきたつもりだもの」
「ふうん。とりあえず、これ借りるね。ありがとう」
ええ、と頷いて、
「何か温かいものを淹れるわね。と言ってもコーヒーしかないけれど」
リビングと対面式になっているキッチンへ入った。
「じゃあ、ブラックにして。うんと苦いやつがいい」
「ふうん、大人ね」
「苦手なんだ、甘いの。喉がただれそうになる」
「ああ」
不意に声が漏れたのは、ハルの言った事が分かる気がしたからだ。
私も甘いものが苦手なのだ。
和菓子も、ケーキも、チョコレートも。
繭と食事に行くと、彼女は必ずスイーツを注文する。
うげ、と顔をゆがめる私を見つめて、いつもこんな事を言う。
東子は残念な女子だ、と。
見た目は美人なのに、残念な美人だ、と。
――甘いものが食べれないなんて、人生の半分は損をしてるようなものよ
そう言って、幸せそうに餡蜜やモンブランケーキをぱくぱく食べる繭を見ながら、私は抹茶やエスプレッソを飲む。
歯が浮くような苦い苦い、抹茶やエスプレッソを。
「私も甘いのは苦手なの」
昨日、会社の近くのコーヒー豆専門店で挽いてもらった、キリマンジャロとマンデリンとモカの、オリジナルブレンド。
「餡蜜も、モンブランケーキも、甘いカフェオレも、全部苦手だわ」
ペーパードリップすると、酸味を含んだ苦い香りが立ち上り、それを一気に吸い込むと脳天を直撃する。
この瞬間が、一番安心するのはなぜだろう。
コーヒーの香りは、麻薬だと思う。
私の精神を安定させる、麻薬だ。
ケトルから熱湯を注ぎ、カップを温めていると、リビングからハルが言って来た。
男の裸を見たところで動じなくなったのはいつだったのか、それすら思い出せない。
「それなりの恋をしてきたつもりだもの」
「ふうん。とりあえず、これ借りるね。ありがとう」
ええ、と頷いて、
「何か温かいものを淹れるわね。と言ってもコーヒーしかないけれど」
リビングと対面式になっているキッチンへ入った。
「じゃあ、ブラックにして。うんと苦いやつがいい」
「ふうん、大人ね」
「苦手なんだ、甘いの。喉がただれそうになる」
「ああ」
不意に声が漏れたのは、ハルの言った事が分かる気がしたからだ。
私も甘いものが苦手なのだ。
和菓子も、ケーキも、チョコレートも。
繭と食事に行くと、彼女は必ずスイーツを注文する。
うげ、と顔をゆがめる私を見つめて、いつもこんな事を言う。
東子は残念な女子だ、と。
見た目は美人なのに、残念な美人だ、と。
――甘いものが食べれないなんて、人生の半分は損をしてるようなものよ
そう言って、幸せそうに餡蜜やモンブランケーキをぱくぱく食べる繭を見ながら、私は抹茶やエスプレッソを飲む。
歯が浮くような苦い苦い、抹茶やエスプレッソを。
「私も甘いのは苦手なの」
昨日、会社の近くのコーヒー豆専門店で挽いてもらった、キリマンジャロとマンデリンとモカの、オリジナルブレンド。
「餡蜜も、モンブランケーキも、甘いカフェオレも、全部苦手だわ」
ペーパードリップすると、酸味を含んだ苦い香りが立ち上り、それを一気に吸い込むと脳天を直撃する。
この瞬間が、一番安心するのはなぜだろう。
コーヒーの香りは、麻薬だと思う。
私の精神を安定させる、麻薬だ。
ケトルから熱湯を注ぎ、カップを温めていると、リビングからハルが言って来た。