フィレンツェの恋人~L'amore vero~
美月は二十歳になったばかりで、春に入社して来た可愛い後輩だった。


私は、美月を信頼していた。


少しおっちょこちょいな所も不器用な所も愛嬌だと思っていたし、可愛らしいとさえ思っていた。


五つも歳が離れているのに、不思議なほど気が合う女の子だった。


好きな音楽もファッションも、食べ物も、私たちは同じだった。


だから、私は、美月を好きだった。


大手広告代理店に就職し、受付嬢になって一年経った頃の私に声を掛けて来たのは、慎二の方からだった。


「今度、食事に行きませんか? できれば……ふたりで」


慎二との交際が始まって、今年で四年になる。


そこに新人として入社して来たのが、美月だった。


「どうしよう、東子さん。また失敗しちゃった」


分からない事があればすぐに何でも質問して来ては、私を一番に頼ってくれる美月は妹のように可愛くて。


「わあ! さすが、東子さん。頼りになる」


慕ってもらえている事が何より嬉しくて、私は疑いもしなかった。


「わたしね、彼氏ができたんです。とても素敵な人なの」


美月は小柄で華奢で、毎日、栗色のやわらかそうな長い髪の毛をくるくる巻いていた。


気が強い私とは正反対で、儚げで、おっとりとした気品のある女の子だ。


まさに、女の子の鏡。


その言葉は、美月のために存在しているようなものだ。


毎日、隣に座って来客の応対をする美月からは、いつも甘い野バラのような香りがした。
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