フィレンツェの恋人~L'amore vero~

サエキジロウ

目を覚ますと、目の前は晴天で、私は冬の朝の眩しさに目を細めた。


眩い朝日に包まれながら目覚めたのは、いつ以来だろう。


少し、頭が痛かった。


お酒を飲んで眠ったわけでもないのに、痛かった。


私とハルは一枚の毛布を分け合うように身を寄せ合いながら、ソファーで眠っていたらしい。


辺りをぐるりと一周、見渡した。


寝室のドアが中途半端に開いていた。


おそらく、ハルが毛布を引っ張り出して来た際に、しっかり閉めなかったのだろう。


壁時計に視線をやると、針は八時五十分を差していた。


耳にハルのすうすうとした寝息がかかってくすぐったい。


ハルは子供のような無邪気な顔をして、眠っている。


私はその寝顔に夢中になった。


男でも、こんなに美しい顔立ちの人がこの世にはいるのね。


なんて黒濃く、長いまつ毛だろう。


昨晩は明りのない空間だったから、まさかここまで綺麗な顔だとは思わなかった。


ハルのまつ毛には何本のマッチ棒が乗るかしら、なんて、意味もなく考えた。


「三本は、さすがに無理かしらね」


つやつやのでサラサラの髪の毛を、そっと掻き上げてみる。


「地毛?」


まるで最高級のシルク生地をすいているような感触だった。


指と指のわずかな隙間からぱさぱさと、真っ黒な絹糸がすべり抜け落ちて行く。


何から何まで繊細で美しい男だ、と思った。


人差し指の背中で、頬を撫でる。


うっとりした。


剥きたてのゆで卵のようなつるりとした肌。


少し小ぶりだけれど、すっと通った鼻筋。


シャープなフェイスライン。


漆黒色の絹糸のような、繊細な髪の毛。


「さらさら」


すくってもすくっても、指の隙間からこぼれて行く砂のようだ。


「本当に綺麗な顔をしているのね、ハルは」


呟きながら、もう一度卵のような肌に触れようとしたけれど、


「……う、ん……とうこ、さ……」


私は慌ててその手を引っ込めた。
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