フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「あの、ハルの物ですか?」


『はい。さようでございます』


何が何なのか良く分からないけれど、妙な緊張感が私を包んでいた。


こんな老人が、本当にハルの親友だというのだろうか。


考えれば考えるほど、不自然だった。


「あ、今開けますから。入ってすぐ右にあるエレベーターを使って、最上階まで上がって来ていただけますか」


『かしこまりました』


かしこまりました、って……。


召使でもあるまいし。


プツリ、とモニターを切り、共同玄関の入り口を開くボタンを押し、


「ハル! ハル!」


私はリビングに駆け込んだ。


「起きて! ハル!」


ソファーに深く沈み眠るハルの肩を掴み、大きな体を無理やりゆすった。


「……う」


「ハル! 大変、あなたの親友が来たの! サエキジロウだって言ったのよ!」


全く起きないハルをゆすり続けていると、今度は玄関のチャイムが鳴り響いた。


ポーン。


「あああ……来たわ、ハル!」


私は髪に手櫛を入れながら玄関に向かい、


「今、開けます!」


施錠を外し、ドアを押し開けた。


「おはようございます」


と、そこに立っていたのは、やっぱり老人だった。


サエキジロウは両手に大きなバッグをぶら下げていて、


「御休みのところ、申し訳ございません」


と、丁度ななめ四十五度ほどの丁寧な会釈をした。


「無理に起こしてしまいましたでしょうか」


「えっ……ああ!」


呆れてしまった。
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