フィレンツェの恋人~L'amore vero~
なぜだかは、分からない。


「そう……ですか」


けれど、これ以上、深く追求してはいけない。


そんな気がした。


「なら、違う事を聞きます。教えて下さい」


「……ですが」


「ハルが言っていました。あなたの事を親友だと。唯一の理解者で、味方であると」


「……え」


サエキジロウの煮え切らない表情に微かな変化が起こったのを、私は見逃さなかった。


「親友……そのような事を、本当に……?」


今にも泣き出しそうなほど、サエキジロウは嬉しそうに顔を緩ませた。


「わたくしは、幸せ者でございます」


「ですから、教えてください。私は、ハルの事、良く知りません。だから、教えて下さい」


「可能な事でしたらば」


と、サエキジロウは胸元でハットを軽く握りしめた。


「ハルの好きな食べ物は何ですか?」


「ああ、それでしたら、お安い御用でございます」


カツ、カツ、カツ、と革靴の音がフロアーに響く。


コツ、と私の目の前で立ち止まったサエキジロウは、私より若干、背が低かった。


「あのお方は、とても聡明でいらっしゃいます。紳士で頭も良く、芯のお強いお方です」


サエキジロウは自慢話でもするかのような揚揚とした口調で、話し始めた。


「しかし、とても繊細で、たまに子供のような一面を出す事があります。それは、孤独を感じていらっしゃる時です」


「そう、ですか」


「はい。本当に正直で、嘘はつきません。あの方が嘘をついたところを見た事は一度もない」


サエキジロウはおそらく、相当、ハルを好きなんだわ。


たまらなく、好きなのね。


そう思わずにはいられなかった。
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