フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「ハル」
そっと、ハルの手を引く。
「ごめんなさい。もう、聞かないわ。コーヒーを淹れ直すから飲みましょう」
キッチンへ向かう私に、ハルは蚊の鳴くような弱弱しい声で言った。
「おそらく、東子さんも同じ事を言って、離れて行くんだろうね」
「え? 何? 聞こえない」
「ぼくの素性を知ったら、あなたとは住む世界が違うって。言うんだ、きっと」
「何言ってるのよ。私たち、同じ世界に住んでいるじゃない」
同じ宇宙の、同じ世界の、同じ、片隅に。
「本当にそう思える? 本当のぼくを知っても、今と同じ事を言える?」
私には、答える事が出来なかった。
だから、同じ事を聞き返した。
「なら、本当の私を知っても、ハルは私を軽蔑しないと言える?」
本当の親に捨てられ児童養護施設で育ち、今の両親に引き取ってもらった。
実花子、から、東子、に名前を変えられた。
実花子、は捨てられてしまった。
そんな過去をいつまでもずるずる引きずり、婚約者の子供を殺めてしまった、私を。
知っても、ハルは軽蔑しないだろうか。
質問に対しての答えは返って来なかった。
「ぼくと東子さんは、どこか似てるね」
それだけ言って、ハルは寂しそうに笑った。
とても、寂しそうに。
「ねえ、ハル。これを飲んだら、出かけない?」
今日のコーヒーは、やけに苦い香りがする。
そっと、ハルの手を引く。
「ごめんなさい。もう、聞かないわ。コーヒーを淹れ直すから飲みましょう」
キッチンへ向かう私に、ハルは蚊の鳴くような弱弱しい声で言った。
「おそらく、東子さんも同じ事を言って、離れて行くんだろうね」
「え? 何? 聞こえない」
「ぼくの素性を知ったら、あなたとは住む世界が違うって。言うんだ、きっと」
「何言ってるのよ。私たち、同じ世界に住んでいるじゃない」
同じ宇宙の、同じ世界の、同じ、片隅に。
「本当にそう思える? 本当のぼくを知っても、今と同じ事を言える?」
私には、答える事が出来なかった。
だから、同じ事を聞き返した。
「なら、本当の私を知っても、ハルは私を軽蔑しないと言える?」
本当の親に捨てられ児童養護施設で育ち、今の両親に引き取ってもらった。
実花子、から、東子、に名前を変えられた。
実花子、は捨てられてしまった。
そんな過去をいつまでもずるずる引きずり、婚約者の子供を殺めてしまった、私を。
知っても、ハルは軽蔑しないだろうか。
質問に対しての答えは返って来なかった。
「ぼくと東子さんは、どこか似てるね」
それだけ言って、ハルは寂しそうに笑った。
とても、寂しそうに。
「ねえ、ハル。これを飲んだら、出かけない?」
今日のコーヒーは、やけに苦い香りがする。