フィレンツェの恋人~L'amore vero~

ケセラセラ

二時間後、私たちは街へ繰り出す事にした。


「さっき、サエキさんから教えてもらったの」


昨晩降り積もった真っ白な雪道を、私とハルは横に並んで歩いた。


「ハルの好きな食べ物」


「そう。で、サエキは何て?」


てん、てん、てん、とずっと向こう先まで続く街路樹には雪の花が白く咲き誇り、冬の陽射しを受けてダイヤモンドのように輝いている。


街中どこもかしこもクリスマス一色で、人で溢れ返っていた。


「生ハム、レタス、チーズをサンドしたパニーノ。それから、フィットチーネのパスタ。エスプレッソコーヒー、ジンジャーエール」


どう? 、私が顔を覗き込むと、ハルはにっと口角を上げて、


「完璧。さすが、サエキジロウだね」


ぼくの親友、と無邪気に笑った。


「それにしても」


行き交う人の波に、ハルが表情を歪める。


「一体、どうなってるんだ、この街は。人だらけじゃないか。クリスマスだっていうのに」


「クリスマスだからよ。クリスマスは出掛けるものでしょ? 家族や友人や、恋人と」


えええー、そうなの? 、とハルは眉間に彫り深いしわを寄せて、ピタと立ち止まる。


「クリスマスは普通、家から出歩かないものじゃないの?」


「え? 出掛けるわよ、普通に。食事に行ったり、プレゼントを選んだり」


「違うよ! それは二十三の日に全部済ませるものだよ」


「違うわよ」


道の片隅で、お互いの腹の中を探り合うかのように睨み合う私たちを、行き交う人たちが不思議そうに見ては振り返る。
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