フィレンツェの恋人~L'amore vero~
何ひとつとして飾りっ気のないシンプルなものだったけれど、私は嬉しくてたまらなかった。
私は、慎二を、本当に大好きだったのだ。
返事に迷いなんてひとつもなかった。
「初めて見た時から、いいなって思っていたんだ、ずっと。東子の事、いいなって」
慎二はすらりと背が高くて、取引先の出版会社のやり手の営業マンで、スーツがとても良く似合う、ふたつ年上の好青年だった。
「でも、東子は美人だし、他にも狙っている男がいたからね。まさか、俺と付き合ってくれるとは思ってなかったんだ」
高校時代はサッカー部で、エースストライカーだったという慎二は誰から見ても爽やかで。
「早く結婚でもしておかないと、誰かに東子を捕られるんじゃないかって、怖くなったんだ」
とにかく、用意周到で。
真面目な優等生の道を地味に歩んで来た私にとって、慎二は完璧な王子様だった。
「東子の唇は、いつもひんやりしてる」
慎二は、とても、キスが上手だった。
特に、ついばむようなキスが。
私は、慎二を、好きだった。
数分前のカフェの店内はほろ苦い珈琲の香りが立ち込めていて、なぜか酷く気が滅入った。
珈琲の苦い香りが、私は好きなはずなのに。
気が滅入った。
「絶対にいけない事だと、頭では分かっていたんです」
そう美月は言い、涙で震える声を絞り出すように続けた。
私は、慎二を、本当に大好きだったのだ。
返事に迷いなんてひとつもなかった。
「初めて見た時から、いいなって思っていたんだ、ずっと。東子の事、いいなって」
慎二はすらりと背が高くて、取引先の出版会社のやり手の営業マンで、スーツがとても良く似合う、ふたつ年上の好青年だった。
「でも、東子は美人だし、他にも狙っている男がいたからね。まさか、俺と付き合ってくれるとは思ってなかったんだ」
高校時代はサッカー部で、エースストライカーだったという慎二は誰から見ても爽やかで。
「早く結婚でもしておかないと、誰かに東子を捕られるんじゃないかって、怖くなったんだ」
とにかく、用意周到で。
真面目な優等生の道を地味に歩んで来た私にとって、慎二は完璧な王子様だった。
「東子の唇は、いつもひんやりしてる」
慎二は、とても、キスが上手だった。
特に、ついばむようなキスが。
私は、慎二を、好きだった。
数分前のカフェの店内はほろ苦い珈琲の香りが立ち込めていて、なぜか酷く気が滅入った。
珈琲の苦い香りが、私は好きなはずなのに。
気が滅入った。
「絶対にいけない事だと、頭では分かっていたんです」
そう美月は言い、涙で震える声を絞り出すように続けた。