フィレンツェの恋人~L'amore vero~
そして、その呪縛から解かれた瞬間に、ハルは居なくなる。
ここから、ふっと息を吹きかけられたキャンドルの炎のように、居なくなる。
そんな気がした。
ひととおり食材を見て回り、
「買い残した物はない? 会計するけど」
私たちはレジに並ぶ事にした。
レジはどこもかしこも列が出来ていて、混雑している。
「トマトにバジル、チーズに生ハム……」
列の最後尾に着き、かごの中の食材を確認している時、私はハルのある事に気が付いた。
ハルは変な子だとばかり思っていたけれど、実はとても賢い頭脳を持っているという事だ。
ハルはたぶん、とても頭の回転が良くて、学校じゃ成績はトップクラスかもしれない、と。
「うん」
かごの中身にざっと目を通したハルが、
「五千六百三十八円、だよ」
に、と真っ白な歯をこぼした。
「えっ?」
「だから、五千六百三十八円だよ。これ全部で」
「ハル、計算が得意なの?」
「まあね」
そして、ハルの計算は正確だった。
「五千と、六百三十八円です」
レジの女性店員が同じ金額を告げる。
「一万円からでよろしいですか?」
「あ、はい」
トン、とハルが肩を叩いて来た。
「ね。言っただろ? ぼくは嘘はつかない」
ハルは、私が思うより遥かにかしこいのかもしれない。
そして、ハルは本当に嘘をつかない。
「ええ、本当にね」
「ねっ」
に、とハルが笑った。
ここから、ふっと息を吹きかけられたキャンドルの炎のように、居なくなる。
そんな気がした。
ひととおり食材を見て回り、
「買い残した物はない? 会計するけど」
私たちはレジに並ぶ事にした。
レジはどこもかしこも列が出来ていて、混雑している。
「トマトにバジル、チーズに生ハム……」
列の最後尾に着き、かごの中の食材を確認している時、私はハルのある事に気が付いた。
ハルは変な子だとばかり思っていたけれど、実はとても賢い頭脳を持っているという事だ。
ハルはたぶん、とても頭の回転が良くて、学校じゃ成績はトップクラスかもしれない、と。
「うん」
かごの中身にざっと目を通したハルが、
「五千六百三十八円、だよ」
に、と真っ白な歯をこぼした。
「えっ?」
「だから、五千六百三十八円だよ。これ全部で」
「ハル、計算が得意なの?」
「まあね」
そして、ハルの計算は正確だった。
「五千と、六百三十八円です」
レジの女性店員が同じ金額を告げる。
「一万円からでよろしいですか?」
「あ、はい」
トン、とハルが肩を叩いて来た。
「ね。言っただろ? ぼくは嘘はつかない」
ハルは、私が思うより遥かにかしこいのかもしれない。
そして、ハルは本当に嘘をつかない。
「ええ、本当にね」
「ねっ」
に、とハルが笑った。