フィレンツェの恋人~L'amore vero~
私はうつむき、ポインセチアの鉢をぎゅううっと抱きしめた。


「したたかな女だ、君は! 性悪でふしだらで」


慎二の言葉が、私の体を一思いに引き裂く。


真っ二つに。


「アバズレ!」


ドクリ、と心臓が動いた。


二度も。


慎二の口から「アバズレ」という下品な言葉を聞くはめになるなんて、これっぽっちもなかった。


だから、そのショックは相当なものだった。


足が棒になった。


立ち尽くす私を、居合わせた人たちがじろりと見て来る。


「アバズレ、だって。最悪」


「居るんだね、見境のない女って」


「言うなよ、聞こえるぞ」


見下げ果てた、目。


「そんな風には見えないのにね」


「人は見かけによらないって言うだろ」


嘲笑、失笑が起きている。


「あ……私は……」


違うのに。


視線を感じて横を見ると、華穂が立ち尽くして私を見ていた。


軽蔑とも憐れみともとれる、でも、何かを言いたげな強い瞳だった。


視線をそらさずには居られなかった。


なぜ、私がこんな目に合わなければならないのか分からなかった。


「お前もだ」


慎二は言い、ハルを指さした。


「お前も気を付けろ。その女はなあ、男なら誰でもいいらしい」


ハルは何も言い返さない。


「利用されて捨てられる前に、捨てた方が身のためだ」


ただ鼻でフンと軽く笑って、


「気にする事はないよ、東子さん」


と異様なほど視線を浴びる私を着ていたジャケットでくるみ包んだ。


「イカれてる。話しにならない男だね。行こう、東子さん」
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