恋のソリューション
「えーっと、はい。一応、資格は取りました」

そう、“一応”、ね。
9月まで携わっていた仕事が始まる前、もう1年位前だけど、提案段階ではデータベースを使うかもって話があったんだよね。
それで名護屋さんに、研修を受けて、ついでに資格も取ってこいって言われて、取るには取ったんだ。
だけど結局、仕事で使う必要はなくなって、宝の持ち腐れ状態。
だから正直、実務で使えるスキルはない。
あくまでも、テキストで勉強して資格を取ったっていうだけ。

我々の仕事の現場では、知識として知っているのと、実際にそれを使いこなせるのとでは、当然後者の方が重宝される。
そういう裏の意味を汲み取ってくれることを期待して、“一応”、って言ったんだけど。

「じゃぁ、問題ないな。
今、うちのチームには、新人と2年目がいるんで、そいつらにテストをやらせて、他の年長のメンバーにはデバッグをさせてるんだが、阿久津にはデータベースの方を見てもらうから。
仕様書は向こうにあるから、見てもらえばわかると思うが……」
「…………」

陣野さんはよどみなくシステムの説明を続けている。
でもさ、本音を言えば、今ここでそんな説明だけ聞いても、現物を見ないとよくわかんないよーって感じなんだよね。それに……。

あーぁ、マジかぁ……。私、データベース担当なの?
気が重いなぁ。
応援なんだから、もっと軽い仕事回してくれればいいのに。
なんなら、新人と同じ扱いでも、全然かまわないんだけどなぁ……。
なーんてことを考えていたら。

不意に、陣野さんが資料から目を上げた。
バチっと視線がぶつかる。

――ドキン。

固まった私が目を離せないでいると、陣野さんは、意味ありげにニヤッと笑った。

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