初恋プーサン*甘いね、唇
.○chapitre6:二度と会えない覚悟
。・*○*
何もない暗闇だけの空間が広がっていた。
そこに、当時の彼と今の彼がふたり、並んで立っていた。
――夢を見ている。
すぐに気がついた。
だとすれば、これは明晰夢というやつだろうか?
テレビか何かで現象名だけは知っていたけれど、体験するのは初めてのことだった。
「ぼく、遠くの国へ行くんだ」
ユニゾンする声に、私はなぜか涙を流していた。
意識は冷静なのに、頬はやけに熱を帯びている。
「君のことなんて知らない。昔にこだわる女は嫌いだ」
夢だと分かっていながら、心がつねられたように痛い。
「好きな人がいるんだ」
「好きな人って誰?」
彼は笑った。
「君なんかより、ずっと積極的で、ずっと情熱的な人」
「えっ?」
ふたりの彼が重なり、隣に腕を組んだ女性が現れる。