初恋プーサン*甘いね、唇
「この人だよ、ぼくが好きな人」
女性は、見紛うことなく美咲だった。
自分の夢ながらとんでもない展開だなと呆れながらも、涙が溢れてとまらない。
「そう、あたしがアンタより先に手に入れたってわけよ」
美咲は口の端を吊りあげた。
違う!
彼女はたしかにからかうことも多いし、困らせることも多いけれど、そんなふうに私をバカにした笑い方はしない。
「ぼくら、結婚するんだ」
「やめて」
夢でも嘘でもやめて、と訴えると、ふたりは顔を見合わせて笑った。
「奪えるなら奪ってごらんよ、ヒヨコの雛子」
ふたりの声が妙に耳のそばで響いてきて、身体が強張った。
怖い。
動けない。
「ふん。情けないわね」
美咲の声。
「聞きしに勝る臆病さだなあ」
これは彼。
「まあいいや。雛子、さようなら」
「行かないで!」
声は無視され、ふたりは背中を向けて闇に溶けていった。
夢でも勇気を出せない、徹底的に怖がりの私を残して――。