初恋プーサン*甘いね、唇
右も左も海外の人(アジア系ともすれ違ったけれど)が埋め尽くす、通りの一角。
そこに、チョコレート専門店『Chuchotement d`ange』はあった。
日本語で「天使の囁き」という意味の、超のつく有名なお店らしい。
(シュショトモン・ダンジュ。ここね)
天使の名前に沿ってか、白を基調にした清潔感のある外観。
前面ガラス張りなのでチョコレート色の内装が見え、見た目のコントラストも絶妙だった。
彼が本当にここにいるという確証もないまま、取るものもとりあえず訪れたはいいけど。
目の前にしたら、緊張のあまり、下腹部の子犬がクウッと小さく鳴いた。
ただでさえ、海外という言葉の通じない、しかもスパルタクスやマリー・アントワネットの彫刻みたいな整った目鼻立ちをした人が往来する街に、たったひとりでやってきたのだ。
それだけでも、コロンブスも真っ青の快挙なのに、彼に告白をするという、さらなるミッションも背負っているのだから。
お腹のひとつやふたつは痛くなる。
私は、『エネミー・ライン』のバーネット大尉みたいに、孤立無援な気分と心の中で戦っていた。
(ダメ。大人しくしてて)
そうやってお腹の子犬を撫でながら、店の前で意味もなく深呼吸を繰り返し、何気なく店内を眺めていたときだった。
ふいに、お店の自動ドアが開いた。