初恋プーサン*甘いね、唇
高校生から大人へと成長した君は、あまり変わっていませんでした。
もちろん、結構長かった髪が短くなったり、薄化粧を施して唇が色づくといった、若干の変化はありましたが。
挨拶をしながらカウンターを横切る一瞬に見えた、右の目尻にある小さなホクロも相変わらず。
ぼくは、午後1時からの時間、10年前の放課後を勝手に思い出していました。
そんなボランティアを始めてすぐ、君がぼくに気づいていることに、気づきました。
なのにぼくは、話しかけられませんでした。
10年間、ずっと恋などと無縁の生活をしていた上に、先に言った通り臆病な人間なので、どう切り出していいのか戸惑っていたのです。
すごく情けないことだけれど……。
しかし、そんな日々もひとまず終わりという形をとらざるを得ない状況になりました。
パリへ行かなければならない事情ができたからです。
さっきも書いたように、ぼくには夢があります。
チョコレート専門店をオープンさせることです。
それが今回叶うことになり、上質の材料を仕入れられるよう、昔お世話になった店に交渉へ行くこととなりました。
大して時間はかからないと思いますが、交渉とは別にオリジナルチョコの開発もしようと思っているので、2ヶ月、もしかしたら3ヶ月ほどはパリへ滞在することになると思います。
でも、二度も君と離れてしまうのは、ぼくにとってはとても心苦しくて。
君の気持ちがぼくにあるとしても、ないとしても。
だから今度は、写真の裏なんかじゃなく、手紙で言います。
直接伝えろよと鼻白むかもしれませんが、ぼくはものすごく口下手な人間でもあるから。
これで、どうか許してください。