初恋プーサン*甘いね、唇
。・*○*
喉がひくつき、熱いため息が口から何度も漏れてきた。
まばたきのたびに涙が溢れて、口の端からジワリとしょっぱい味を運んでくる。
「泣かないで」
彼は袖を引っこめ、私の頬を拭いてくれた。
近づく白い袖から甘い香りが漂い、樹液に吸いつく昆虫のように引き寄せられ、私は体重をかけない程度に抱きついた。
こんなふうに、いつもなら絶対しないようなことができたのは。
異国の非現実的な感覚からであり、かき集めて鼓舞してきた勇気の残り香でもあったと思う。
とにかく、くっつきたかった。
「こんなの読んだら、誰だって……泣きます」
彼の左胸に顔をうずめ、くぐもった声でつぶやく。
さすがに文才のある恋愛小説を書く人の息子というべきか、言葉のひとつひとつが10年のピースをカチカチとはめていくような、心地よい感覚を覚えた。
なんてことはない。
彼の10年も、私とほとんど一緒だったのだ。
表向きはバイタリティー溢れ夢のある立派な青年だけれど、恋愛に関しては小型熱帯魚の私と大した差はなかったらしい。
話しかけてくれなかったのも、他人に話すような口調や態度も、私と同じ理由からだったんだ。
見えないところで、すれ違っていただけ。
自分で自分を卑下するあまり、お互いの恋はズレていた。
ほんの少しだけ、けれど、10年という時間とともに大きく。