初恋プーサン*甘いね、唇
「ごめん。口で伝えればよかったんだけど」
申し訳なさそうな彼の声と息が、つむじをくすぐった。
「いいんです……。私も、先輩と同じだったから……」
司さん、と呼べずに、学生時代の名残で先輩と呼んでしまった。
彼は、気にする様子もなかったけれど。
「同じって?」
「リコリスグーラミィなところです」
「……何それ?」
「――いえ」
甘い酩酊の中で、私は泣きながら少し笑った。
「だけど、君はこうして来てくれた」
私は軽く回した両手で、彼の服の裾をグッと相づち代わりに握った。
「ぼくより、よっぽど勇気がある人だ。すごいよ」
「いえ。こんな異国に平気でいられる先輩の方が、よっぽど勇気があります。私なんか、ここへ来るだけでも、心臓が飛び出そうなくらい緊張しっぱなしで……」
上を向きながらおどけて言うと、彼は静かに否定した。
「いいや、君は大した人だよ」
ね?と眉をあげる彼に、押し問答をやめてうなずいた。
「はい」