初恋プーサン*甘いね、唇

「君でいいってことはない」


「え?」


「君が、いい」


「……なるほど」


「そう。一字違いで大違い」


「ですね」


笑みを交し合ったところで、彼が「これから」と切り出した。


「ちょっと時間ある?」


「ありますけど」


「じゃあルーブル美術館へ行こう。せっかく来てくれたんだから、案内するよ」


「でも仕事は?」


「ああ」と彼は店を見やり、視線を戻して口の端をつりあげる。


「お店で働いてるわけじゃないし。大丈夫」


「そっか」


「デート、してくれる?」


「喜んで」


「一眼レフもまだ健在で、こっちにあるんだ。美術館のところで、ぜひ久しぶりに君を撮ってみたいな」


彼は、指で作ったフレームを私に向けた。


「泣き虫なモデルでよければ」


「が、でしょ?」


彼はフレームを崩し、親指の腹でまぶたを撫でた。


動きに身を任せ、ゆっくりと目を閉じる。


心拍数が高まり、息が荒くなってきた。


予想しうる事態ではあったけれど、展開に準備がついていかず。


とにかく私は、事に臨む前の限られた時間で、イメージトレーニングをしてみた。


おおまか、こんな感じで――。

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