初恋プーサン*甘いね、唇
.○chapitre9:プーサン


。・*○*


「なるほど。一生分の勇気を使い果たした甲斐があったわね」


日本へ帰国した後、旅の疲れを引きずる私もお構いなしにチャクラへ強制連行され、重要参考人かという勢いで、ふたりから質問攻めにあった。


はぐらかそうとすると「休日作ってやった」だとか「たくさんお世話してあげたでしょう?」とか、しらふのくせに絡んで、恩をやたらと振りかざしてくるので、私は気圧されて洗いざらい告白させられていた。


キスのくだりは、ぼんやりとぼかしたけれど。


「でも、行かなくても手紙を見れば済んだことだったのよね」


博美さんの言う通りだった。


穴が開くほど何度も見ている本をちょっと開けば、わざわざ大変な想いをしてフランスにまで行く必要がなかったのだ。


バッグに入れて持っていくほど、肌身離さなかったはずなのに。


まさに「こんなときに限って」で、大事なときには開きもしないなんて、間抜けすぎる。


だいぶ、身銭を切ったのに……。


「いいじゃないか。直接行ったことに、意味があるんだから」


マスターはいつにも増して明るい口調で言った。


私の恋の成就を喜んでいるのか、博美さんがいるからなのかは、たしかめようがないけれど。


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