初恋プーサン*甘いね、唇


。・*○*


――カランカラン。


「いらっしゃい……あ、雛ちゃん」


マスターの声に、なんだか家に帰ってきたような安心感を覚えた私は、空いていたいつもの席へ座った。


店内は、テーブルにカップルと、カウンターの一番左端にスーツ姿の中年男性がいるだけだった。


店自体はこぢんまりしているから、結構繁盛しているほうかもしれない。


「珍しいね、こんな時間にひとりで来るなんて」


マスターは、おしぼりと水を、手早くカウンターに置いた。


「はい、ちょっとお腹が空いちゃって」


「お?デート中に食べてこなかったのかい?」


「デート?」


どうしてそれを?と口にする前に、マスターは笑って言った。

< 59 / 201 >

この作品をシェア

pagetop