初恋プーサン*甘いね、唇
高柳修(たかやなぎおさむ)館長の話によると、この図書館に思い入れがあるからと彼が自ら買って出たらしく。
熱意をくんで、即断即決したとのこと。
運命の再会というほど大きな街ではなかったし。
当然、彼の地元でもあったわけだから、確率的に考えても、別段不思議なことではないけど。
やっぱり、最初は驚いた。
だって、彼は高校を卒業してすぐ、海外へ渡ったはずだったから――。
しかし残念なことに、私は彼に一発で気づいたのに、彼は私に気づいていない様子だった。
「久しぶり」なんて話しかけてもくれないし。
まあ、あのころと違って髪はバッサリ切ってボブにしていたし。
化粧も人並みに施すようになっていた上に、当時会話をしたのはほんの少しだったから、無理もないけれど。
それにしたって、気づいてくれてもいいのに……と、理不尽な欲求が口の端をいつも泳いでしまう。
自分の価値観や想いを、同じレベルだけ相手に望むのがダメなことくらい、理解しているのに。
結局、もともと消極的だった私は再会を喜ぶ術もなく。
映画のようなシーンとは、疎遠の日々を送っていた。