初恋プーサン*甘いね、唇

「昨日、美咲ちゃんが言ってたろ。明日は『お礼と称したデート』とかなんとか」


「ああ……」


たしかに、余計なことを言ってたっけ、美咲が。


「ランチ、食べてこなかったのかい?」


「はい。レストランへ行こうとしたときに、ちょうど仕事が入ったらしくて」


いつもは、美咲がしつこく尋問するからついつい喋っていたけれど、今日は自分から告白していた。


ひとりだからというのもあるし、マスターの人柄がそうさせるのかもしれない。


大きな体と比例して、大きな心を持っているから。


「そりゃあ、残念だったね。それとも、好都合だったかな?」


「えっ」


「雛ちゃんがデートした相手って、ボランティアの彼じゃないんだろう?」


「あ、はい」


「だったら、好きでもない相手とするデートは苦だったろう」


「いえ、それは……」


はい、と言えない自分に、また罪悪感。


「思ったより、優しい人だったのか」


「…………」


マスターは、話を中断して「パスタでいい?」と言った。

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