初恋プーサン*甘いね、唇
「ふう。ごちそうさまです」
「いえいえ。はい、これはサービスね」
食後にマスターが出してくれたのは、アイスレモンティー。
口直しに、と添えてもらって、私は頭を下げた。
こういう何気ない気遣いは、私も見習わなきゃいけない。
ストローで軽く混ぜ、口に含ませて、泳がせて、飲みこむ。
さわやかな酸味が、口の中をスッキリさせてくれた。
「まあ、なんだ」
お店がひと段落して、お客が私だけになったところで、マスターはカウンターの中のスツールに座った。
「はい?」
「その市村さん、とかいう人と会って、優しさに触れたわけだよな?」
「……はい」
その話か、と思いつつ、マスターには素直でいられるから、別段警戒はしていなかった。
いつもはおどけて、くだらないやりとりを美咲を繰り広げたりするけれど。
「で、雛ちゃんは、ボランティアの彼とその市村さんとやらと、ふたりの間でさ迷ってるわけだ」
人間観察が鋭いというか、なんというか。
わずかな情報から、枝葉を的確につけて概要をつかんでくるマスターには、かなわない。
「はい……まあ」